日本の建設コストは割高というイメージが定着しているようですが、私がIDI研究員時代に日米コスト比較に関する報告書を見たことがありますが、同じ米国内でも北部東海岸地域とテキサス州などでは2倍近く単価が違い、また、日本との対比おいても為替相場により大きく左右されるため、比較が困難であるものの、個別の工事単価を比較する限り日本の方が安かったというものを見たことがあります。

特に人件費関連の単価は日本より米国の方が相当高いように思えます。
米国等に調査に行ったときはエンジニアの年収2000万という話を聞いていましたから、日本では滅多にないでしょう。

このように、個別の工事の単価で日本が割高という事実はないと思われますが、例えば、高速道路1km当たりの工費で比較すれば、日本は圧倒的に高いと思います。

理由は、まず、構造物区間が圧倒的に多いということです。高速道路などは、高架橋、トンネル、橋梁、大規模法面などの連続です。米国やドイツでは土工区間が延々続き構造物はほとんどない区間が圧倒的に多いでしょう。構造物は土工に比べて、何十倍もコストがかかります。(管理費もかかります。)

この理由としては、日本は山岳部や人家密集区間が多いことが第一の理由ですが、さらに言えば、日本のインフラ事業は住民合意形成や用地取得に非常に時間がかかります。スムーズに事業を進めるために、事業者は、なるべく人家への支障を避け、構造的に無理をしてでも、急峻なところを通したり、都市部では地下構造にせざる得なくなってしまうことが要因だと思います。

また、日本が作るものは何でもフル規格で、オーバースペック気味になりがちです。
一つには、日本人は、なんでも完璧なものが好きだという事があると思います。
例えば、設計速度100km/hであっても基準値ギリギリまで追い込んだ曲線半径などは、まず適用されません。特例値など新設路線ではもってのほかだと思います。
これは、安全面での配慮(急カーブなどは事故多発ポイントになる可能性がある)して、新設構造については、コスト面で無理しても曲線半径などの幾何構造では推奨値以下なるべく使えないと思います。
戦後すぐに作った、東名高速の箱根付近や中央道などは一部区間にかなり追い込んだ値がありますが、当時の財政状況と供用目標期限の制約上ではそうするしかなかったのだと思います。(しかし事故の損失を考えると良かったかは疑問)

もう一つ、オーバースペックになる理由は、地元の要望や政治的な理由です。
新幹線を見れば、「ミニ」規格で充分交通需要を満たせる路線でも、フル規格ばかりになっていますし、短区間にいくつも駅あるようなところもあります。

規格の違いで建設コストも運用コストも相当な差が出ますし、早期供用できて、料金も安くなった方が利用者の利便性は高いと思われますが、日本人はフル規格が好きですね。

このように、日本のインフラ建設コストが割高な要因の多くは、工事単価以外の構造的なものがほとんどで、建設業者を悪者にしていてもあまりコスト削減効果は見込めないと思われます。
実際に、コスト削減するためには
①土地収用容易化や合意形成のスピードアップのための法体制や仕組みの整備
②規格や仕様確定の最適化のための仕組みの整備(運用までを考えた最適な仕様確定)
等の対策が重要になってきますが、短期的な解決は難しいのが実際です。

さらに、工費だけでなく、総コストである事業費(大きくは、工費、用地費、補償費により構成)で比較すれば、他国よりさらに割高になっている可能性がありますが、別の機会に述べたいと思います。

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