公共調達制度専門の研究員時代、欧米各地の行政機関などにヒヤリングして回っていたある時、欧米の行政関係者から「どうしてあなた達は、制度の細かいところを、そんなに知りたがるのか?」、「自分達で良いやり方を、それぞれ個別ケースで、考えればよいのでは?」と聞かれたことがあります。

 私が、公共調達制度の研究をしていた当時は、建設市場が半分に縮小していった時代で、建設不況にあえぐ日本国内では、低入札が問題になっている時期であり、品質低下問題から品確法が導入され、海外の技術評価型の入札である提案入札、総合評価方式の調査が盛んでした。

 国交省も、各国の総合評価方式の計算方法(加算or減算かなど)への興味が強く、過去の調査もそれに関連するものが多かった記憶があります。

 過年度の報告書を見ると、各国計算方式の調査結果が載っていて、それを基に国内の議論も、「フランスでは○○方式」「アメリカでは××方式」といった感じで、その国全部がそういうやり方になっているような認識で比較表が書かれていたりしました。

 でもこれって、ある一事業の入札事例を取り上げたものにすぎないのです。

 この時に、日本と欧米での行政の役割に関する認識に、根本的なギャップがあると感じました。

 日本の官僚も、建設コンサルタントやシンクタンクの人も、欧米には、日本と同じように、行政が作った「詳細な入札マニュアル」が存在し、各行政機関が、そのマニュアルに従い入札を行っていると思っています。
 そして事例調査して、それが、その国全部のやり方だと思ってしまうという感じです。

 公共調達制度を考える上で、行政の役割が、日本と欧米では根本的に、違っていることを認識する必要があります。

 例えば、日本の場合ですが、一般競争入札により低入札が問題になると、まずは、官僚が裏書した法案が国会に出て「品確法」を作り、総合評価を原則化します。
 品確法ができると、今度は、政令、省令、通達と、さらに詳細な解釈や細かい基準(マニュアル等)や計算方法が作られて、各行政機関がそれに従い発注する形をとります。
 そして、個別の入札結果に対する不服として、民間業者から訴訟が起きることは、ほぼありません。

 日本の仕組みは、お上(国家官僚)が、法の企画・立案から、詳細な解釈、執行、運用に至るまですべて指示し、官民はそれに従うという上意下達の構造となっています。
 
 三権分立(立法、行政、司法)の概念で考えると、日本では、制度分野では、司法も立法も、あまり出番はあまりないようです。


 欧米の場合ですが、立法府(議会)でできた法を、行政が解釈し執行します。しかし、法の解釈をめぐって官民で相違がある場合、司法(裁判等)によって解決します。
 つまり、行政は常に訴訟のリスクを抱えています。 

 よって、国の行政機関は、法を受けて、細かい入札方式等の基準は作りません。国のガイドラインは、ベストバリューを達成するために理念や概念をまとめたもので、とてもあいまいな内容です。
 加算やら減算やら細かい計算方法など指定されているわけではありません。
 強いて言えば、「コスト・金額」を評価項目から外してならない位の決まりです。
 もし、国が細かい業者選定方法を指定したら、国は訴訟だらけになってしまうでしょう。

 革新的な調達方式を導入する場合は、実際発注する各行政機関が、法や「あいまいなガイドライン」を解釈し、個別の事業特性に合わせて、詳細な評価方式や計算方式を決め、入札を行うことになります。

 入札結果に対して業者に不服があれば、個別の行政(発注機関)と業者との法の解釈を巡る訴訟になります。
 そうして、将来の判断基準となる判例が蓄積されていくことになります。
 三権分立が機能しているとも言えるでしょう。

 いわゆる欧米の伝統的調達方式、設計施工分離、小工区分割発注、最低価格落札、ユニットプライス契約というものは、こうした長年の訴訟等の歴史を得て、練り上げられた方式であり、定量評価の入る余地が少なく入札結果をめぐる訴訟リスクは低いです。

 しかし、いわゆる「革新的入札方式」、設計施工一括発注(デザインビルド)や、プロポーザル入札などとなれば、発注者の定量評価、主観の入る余地が満載で、訴訟リスクは高くなります。
 そのため、行政機関は特別に大規模な事業において革新的調達方式の効果が認められる場合のみ、ある程度の訴訟を覚悟しながら「革新的調達方式」を採用することになります。
 私の認識では実態は、こんな感じだと思います。
※これは各国のローカルの公共事業の話です。

 まとめとして、日本の場合は、政治の主導もなく、司法、訴訟によるフィードバックも少ないので、結果として、行政側は、どんどん法や規制を作り、手続きが複雑化し、許認可や規制権限を持つ行政の予算と権力が肥大化していく形になりやすいと言えるでしょう。

 ご参考になれば幸いです。

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