もうずいぶん昔の話になりますが、某高規格道路のICのデザインビルド(設計施工一括発注業務、構造は土工部)の担当をしたことがあります。その時の経験談を書こうと思います。
受注契約者は、某準大手ゼネコンのJVで、私のいた建設コンサルタント会社がゼネコンの下で設計を行うことになりました。
大きな業務なので、設計は、構造担当と道路担当のチームで担当していました。
当初、私はその業務に関係なく、別のベテランが担当(道路)でしたが、その人が、会社に来なくなってしまいました。
構造担当に聞くと、ゼネコンの担当がひどいパワハラで、すぐに怒鳴り散らすとのことでした。
私としても本当に嫌だったのですが、高規格道路設計経験が多かったので無理やり道路設計担当にさせられました。
まず、元請けゼネコンに新担当である報告と挨拶の電話をしましたが、いきなり、怒鳴り散らされました。電話を切ったあと、JVの副のゼネコンの担当からも電話がきて、また怒鳴られました。(もう勘弁してくれよ~)
それから業務を整理しましたが、事前に基本設計(予備設計)が行われており、その成果をベースに、設計施工一括発注されていますが、道路、特にICというのは、面的開発でもあり、排水や、河川、砂防・保安林(指定地の場合)、交通管理者、地元、その他いろいろな関連機関協議が必要になります。
しかし、基本設計は修正設計が繰り返されており、過年度成果踏襲ということで、根拠がかなり不明確なものもありました。そして、施工発注前に必要な、計画協議や、施工協議等の関連機関協議の経緯や結果が不明なものが多かったのです。
役所の発注担当者も人が代わっていて、もう誰もわかりません。
そして、数か月、業務が全然進んでいませんでした。
「こりゃ、ゼネコンの人が怒るのも仕方がないな~」と思いつつも、早急に今後の対応をまとめて、役所で合同打ち合わせをすることになりました。
その時、役所のロビーで、初めてゼネコンJVの現場代理人と会うわけですが、初めての電話で怒鳴られたこともあり、ビクビクしていました。さぞかし、いかついおじさんが出てくると想像していました。
ところが、実際会ってみると、誠実そうな人でした。「ちゃんとやってくれないと困るよ!」と怒られましたが、これは仕方がないです。
JV(副)の方は、ヤンキーみたいに、こちらを威圧するように怒ってきましたが、正直、迫力がなかったです。
そして、役所の担当者とゼネコン、建設コンサルの三者で打ち合わせをしましたが、ゼネコンの人は役所の発注担当者に異様にビクビクしていることに驚きました。合同打ち合わせに入ると、ゼネコンJVの現場代理人二名は、借りてきた猫のようになって、打ち合わせテーブルの隅っこに座っていて何もしゃべりません。施工者としての意見を振ると、あいまいで答えられません。土木分野の技術的な知識はあまり無いようでした(当然、施工の知識はあると思います) 。
業務の方は、基本設計から経緯不明な部分があり、根拠を全面的に再確認し、詳細設計と関連機関協議を進める必要がある旨、施工できる部分は、前倒しで図面承認し施工を進めて、全体工程や隣接工区に影響を出さないように努力するというような内容で提案し承認を得ました。
そして、打ち合わせが終わって、外に出ると、JV(主)の現場代理人の方の態度は、だいぶ柔らかくなりました。
それからは、何といっても実質、基本設計からやり直しという感じでしたので、いろいろ難問も抱えて四苦八苦しながらも、それから、二年間くらい業務完了までJV(主)の人とは共通目的をもって、毎日やりとりして業務を進めることができました。
お互い尊重した態度で接することができました。
個人的には、完成責任を持たされるゼネコンが殺気立つのは仕方がないとは思います。しかし、目標を共有できればうまくやれると実感はしました。
JV(副)の方の人は、合同打ち合わせ後、ロビーに戻ると、さっきまでの借りてきた猫のような態度が一変、また横柄な態度に戻りました。
この人は、威圧的な態度を業務の最後まで崩さなかったです。技術的な知識も乏しく、話が通じないのは困りました。
一番困ったのは、設計への口出しで、設計では、構造等は諸要素を比較して決定しますが、同じ機能や施工性なら当然、安い方を採用します。
ところが、JV(副)の方は、「どうして安い方を提案するんだ!受注額が減少するじゃねーか!」、「コスト低減提案するんじゃねー!」、「数量を減らすな!」など意見してくるので困りました。
その他、根拠のない意見や無茶苦茶な話が多くて、話になりません。
自分の会社の利益だけで、社会に対する利益を意識しておらず、共通目的を持つことはできませんでした。
施工者が設計することについて、不合理なものを感じていました。
その度に、JV(主)の人に電話をして、
私「JV(副)がこんなことを言ってきているが、知っていますか?」
JV(主)「全然、聞いてないよ」
私「設計側としては、根拠のない提案はできないので無視してよいですか?」
JV(主)「いいよ!」「まったく困ったもんだハアー(ため息)」
といった感じで、無視するしかありませんでした。
業務は実質JV(主)の人が全部仕切っていて、JV(主)(副)も、無理やり組まされた感じで、仲も上手く行っていないようでした。
ゼネコンの人も大変だな~と同情していました。
建設コンサル業務としては、設計しながら施工もどんどん進んでいくという変則的な業務になりました。
ちなみに、建設コンサルタントの道路設計業務というのは、例えば概略や予備設計で段階を追って、道路の主要構造や用地範囲を決めていきます。
その時の基礎データ、例えば、地質で言えば、主要構造物のあるところや、切土の最大個所など代表的なポイントで、ボーリング等を行い、地質コンサルタントが報告書を作ったり、測量図面(縦断横断等)に想定土層線等を入れるのです。
そうした調査をベースに最終的な構造設計を行うですが、代表個所しか実測データはなく、あくまで「想定」された土質、地質で設計を行います。
そのため、施工時、掘ってみないとわかりません。掘ってみたら設計時想定と違っていることもあって当たり前なのです。
また、測量図にしても、中心線の縦断測量、横断(20m間隔)と、航測データを実測で修正した地形図のみです。設計図の地形と、実際に誤差があって当然なのです。
ところが、ゼネコン(副)の人は、これを全く理解してくれません。「掘ったら図面と地質が違うじゃねーか!いい加減な設計するな」とか、そんなクレームがよくありました。
※これは普通の設計業務の後、施工が始まったときによくある話ですね。
ゼネコンは、実際の工事完成責任を負っているのですから、殺気立つのも仕方ないと思ってはいます。
ゼネコンの人に聞いたのですが、現場代理人は、下請け(専門工事業者)を多数使って工事を進めるわけですが、「現場は下請けになめられたら終わり」なので、下請けに威圧的に接する場合が多いそうです。それが常態化すると、「自分は本当にすごい人だ」と勘違いする人がいてもおかしくありません。
過去に、「建設コンサルタントはバカしかいない」「建設コンサルタントはレベルが低い」と公然と言い放っている、60代のゼネコンOBを何人も見かけたことがありますが、JV(副)の人も、今頃そうなっているんでしょうね。(こちらの記事も参考にどうぞ「日本の建設コンサルタントはレベルが低い?」当社別サイトへ移ります)
設計業務金額が大きな仕事でしたが、実質、予備検討や関連機関協議から大部分やり直しだった上に、設計しながら施工ということで現場での問題等も次々に上がってきて、コストがどんどん嵩んでいきました。
数千万単位の大赤字が予想されていました。
これが、会社で大問題になって、経営会議でも議題に上がって、私が戦犯のようになっていました。「○○(私)が何千万円も使った」、「あとどれだけ金を使ったら終わるんだ」などと会社から非難されていました。
私としては、前任者が会社に来なくなって、むりやり業務を振られたのに、ひどい話です。
でも、誰も代わってくれないし、やらなければ終わらないので、黙々と業務を進めていました。
さて数千万の赤字ですが、通常の建設コンサルタント業務であれば、業務契約範囲外であれば発注者(行政)に契約変更と増額を要求することはできます。
(必ずしも設計変更等をすべて見てくれるわけではないですが)
しかし、今回ケースはゼネコンJVの下請けという形になり、増額請求の困難さが予想されました。
元請けのJVに大赤字であることを説明しても、「うちも苦しい、増額は不可」、「発注者(行政)が設計費として払ってくれるなら払う」という話だったと思います。
そこで、最終的には、発注者(行政)に直接交渉した結果、契約範囲外の業務として増額は認めていただけました。その点は、ちゃんと仕事をしていたことを評価していただいたと思っています。
そして最終的には、大赤字から一転、設計業務はかなりの黒字となりました。
私としては、今まで大赤字の戦犯として非難されていたので、大黒字になれば、逆にほめられてもよいと思いますが、全く、そういうことはなく、私を戦犯としてやり玉に挙げていた部長が、今度は自分の手柄にしているのです。
まあ、このような「失敗は部下のせい、手柄は俺のもの」というような話はサラリーマン誰もが多く経験してくることですよね。
こういうことは、私も多く経験していますが、上司に手柄を立てさせることは別に腹が立ちませんが、私に対して悪意を持った人が、それをやると面白くないですね。
その数年後に会社を退社し、マネジメントの勉強を開始し、国交省の研究機関で二年間海外の公共調達制度専門の研究に充実する機会に恵まれました。
普通の人より多少は詳しいと思いますので、当時の設計施工一括発注(デザインビルド)について述べたいと思います。
設計施工一括発注(デザインビルド)のメリットが生かせるものは
・不可規定要素が限定できるもの(用地や許認可、対外協議等のリスクがないもの)
・メーカーやゼネコン側にノウハウがあるもの
・コストが割高になってもよいから完成供用を急ぐ場合
(早期供用による便益で割高コスト分をペイできる)
つまり、リスクが業者側でコンロトールできて、自社の独自技術者、ノウハウや製品を生かせて、設計と施工を同時に進められるような業務は、向いています。
海外事業では、ターンキー契約とかEPC契約などといって、主にプラント関係の調達に用いられます。プラントメーカーなどはこの方法に熟練しています。
逆に向かないものは、不確定要素が多すぎるものです。特に、用地、地元の同意や許認可(関連機関協議)等は受注側でコンロトールできません。
つまり、面的に大きな開発案件や、長いもの(道路)等は向かないと思います。
やるとしたら、それらのリスクは完全に発注側が負う必要があります。
例えば、遅延したら、発注者が受注側に賠償を行う必要があります。
また、施工側のノウハウがあまり生かせない土工部や一般的な構造などは、メリットがありませんし、低コスト面を追求する場合もデザインビルドは向きません。
例えば、設計施工一括発注(デザインビルド)を土木分野に適用するとすれば、橋梁予備設計(形式等)と下部工詳細設計、河川等の計画協議も終わっていて、上部工の詳細設計付発注であれば、合理性はあります。
コンサルの設計した図面はそのまま使えず、橋梁メーカー側で制作設計や仮設は設計しなおすのが普通だからです。同じようにトンネルなどもそうです。
その他、機械や水門などの施設も当てはまります。
メーカー側にノウハウがあるからです。
ちなみに、「設計施工一括発注および詳細設計付工事発注方式 実施マニュアル(案)」h21年においても同様の判断になっております。
この業務当時は平成10年代で、まだ、設計施工一括発注(デザインビルド)方式のメリットデメリットの認識もあまりなく、基準もスキームも固まっていなかったので、土工部で延長も長く、しかも面的部分(IC部)も含み、関連機関協議が未了という、あまり向かないものになってしまいました。
唯一、早期供用と言う点は、デザインビルドのメリットが生かせたと思います。設計しながら施工もどんどん進めましたから、もし詳細設計を完璧に終わらせてから施工発注したら1年以上は供用が遅れたでしょう。早期供用でも社会的利益は大きなものがあったと思います。そういう意味では、このデザインビルドという調達方式の適用は失敗ではなかったと思います。
調達方式についても、こういう試行錯誤をするから生きた知見も集積されて、世の中、進歩していくと思います。
個人的には、それに関われたことは今に思えば幸運でした。
当時の経験も誰かの役に立つかもしれないと思い書いてみました。
(こちらの記事も参考にどうぞ。「敗戦処理は感謝されない」)
(こちらの記事も参考にどうぞ。「頑張れ」しか言わない管理職,無茶な業務投入経験)
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